ばりすたの株式備忘録

ばりすたの株式備忘録

株の世界で5年後も生き残っていたい…

アルツハイマー病治療薬の最前線

アルツハイマー病について調べなくては…と思いながらもなかなか手付かずでしたが、 最近アルツハイマー新薬に関する情報を立て続けに目にしたので、これを機にいろいろ調べてまとめてみました。 それでは『アルツハイマー病治療薬の最前線』をご覧ください(追記/修正:2018年8月19日)。

 

アルツハイマー病とは

アルツハイマー病(アルツハイマー認知症)」とは、認知機能低下、人格の変化を主な症状とする認知症」の一種であり、認知症の50%以上がアルツハイマー病だと言われています。

f:id:barista_stock:20170927115440p:plain

※参照:そーせいグループ株式会社「株主通信 第27期中間決算号」

全世界では約4,500万人(北米:480万人、西欧:750万人、アジア太平洋:360万人)が認知症を患っており、2050年までに1億3,000万人にまで増えると予測。また、経済的な負担も大きいと指摘されています。ホームケアなどを含めて、アルツハイマー病の医療費は依然急増し続けており、北米、西欧およびアジア太平洋地域において6,400億米ドルと見積もられているようです。

 

原因は「特殊なたんぱく質による神経細胞の破壊」

アルツハイマー病では、脳の神経細胞が減少する、脳の中で記憶を司る「海馬」を中心に脳全体が萎縮する、脳に「老人斑」というシミが広がる、脳の神経細胞に糸くず状の「神経原線維変化」が見つかる、といった変化が現れます。
脳の中にアミロイドβ(Aβ)と呼ばれるタンパク質がたまり出すことが原因の一つ。Aβが脳全体に蓄積することで健全な神経細胞を変化・脱落させて脳の働きを低下させ、脳萎縮を進行させると言われています。このAβを原因とする考えの他にも、タウ仮説、アセチルコリン仮説、グルタミン仮説等、さまざまな仮説もあるようで…
なお、アルツハイマー病の根本治療はまだ存在せず、抗認知症薬で病気の進行を遅らせることができるにとどまっているのが現状です。

 

アルツハイマー病に有効と認められた4種類の薬

2016年現在、日本国内では認知症の薬としては4種類が認可されています。

f:id:barista_stock:20170927115655p:plain

これらは2つのグループに分けられ、アリセプト、レミニール、リバスタッチパッチ/イクセロンパッチはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬」というグループに、そしてメマリーは「NMDA受容体拮抗薬」に分類されます。メマリーは前述3剤とは異なる働きを持つため、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬のうち1剤と併用して治療することも可能。

アリセプト(Aricept / ドネペジル:Donepezil)

アリセプトアルツハイマー病の症状進行を抑制する薬であり、エーザイ株式会社より開発され「アリセプト」の製品名で販売。認知症治療薬の中でも古くから使用され、軽〜中程度のアルツハイマー病に用いられるものとして国内外とも大きなシェアを占めています。
アルツハイマー病では脳内の神経伝達物質であるアセチルコリンの活性が低下していることが分かっているため、アリセプトアセチルコリン分解酵素であるアセチルコリンエステラーゼの作用を阻害することで脳内でのアセチルコリンの濃度を高め、神経伝達を助けています。
f:id:barista_stock:20170927115918p:plain

※出典:認知症ねっと 

メマリー(Memary / メマンチン:Memantine)

メマリーは第一三共株式会社が2011年6月8日に発売した、中等度および高度アルツハイマー病における症状の進行を抑制する薬。中等度、もしくは高度のアルツハイマー病で、他のコリンエステラーゼ阻害薬に耐えられないか禁忌のある場合の選択肢として推奨されています。
認知症患者の脳内では異常なタンパク質によってグルタミン酸が過剰な状態となり、NMDA受容体とグルタミン酸が結合することで神経細胞内にカルシウムイオンが多量に流れ込み続け、記憶のシグナルが妨害され記憶形成が困難になってしまうというグルタミン酸仮説」があります。
メマリーはNMDA受容体拮抗薬であり、「過剰な」グルタミン酸の放出を抑え、結果的に脳神経細胞死を防ぐ働きがあります。つまり、グルタミン酸がNMDA受容体と結合する前にマグネシウムイオンの代わりにNMDA受容体と結合することで、カルシウムイオンが神経細胞内に過剰に入り込むのを防ぎ、記憶の形成を正常化させるのです。ただし、正常なグルタミン酸の放出や記憶のシグナルまで抑えることはないので、統合失調症や幻覚などの副作用はないとされています。

f:id:barista_stock:20180819112835j:plain

※出典:神経疾患治療マニュアル

  

現在の主流のアミロイドβ仮説

開発されている治療薬の現在の主流は、Aβ仮説に基づき、Aβをターゲットとするもの。

f:id:barista_stock:20171029143130j:plain
「週刊エコノミスト」特集:認知症に克つ 2017年7月4日号 より

Aβと結合し、脳内で異物を排除する役割を担うグリア細胞ミクログリア)に除去させる「抗Aβ抗体」(※脳のシミを消す・減らす)や、APPを切断するβセクレターゼに作用してAβの産生を抑える「BACE(βサイト切断酵素)阻害剤」(※脳のシミのもとを作らせない)などAβの異常蓄積を防ぐことを目的とした薬剤、また神経炎症の抑制やタウ凝集を防ぐことを目的とした薬剤が開発されています。

下図はエーザイの資料に掲載されている、各社が開発を進めているBACE阻害剤と抗Aβ抗体の概要ですが、各社試験に失敗し、開発継続を断念する企業が続出している状況で、「Aβ仮説」自体の信頼性が揺らいでいる、というのが現状かと思います。

f:id:barista_stock:20180819120536p:plain

f:id:barista_stock:20180819120549p:plain

※出典:エーザイ株式会社 2018年度(平成31年3月期)第1四半期 決算説明会資料より 

 

Aβ仮説に希望をもたらすアデュカヌマブとBAN2401

そのような状況の中、アルツハイマー病治療薬の最有力候補とされていたエーザイの「アデュカヌマブ」に新しい動きがあり、Aβ仮説に希望の光が差し込んできました。

開発で失敗した薬は、脳以外にある凝集していないAβにもくっついてしまうことなどが原因で十分な効果が認められなかったと考えられているのに対し、この「アデュカヌマブ」は、脳内に凝集し、毒性を持ったAβだけに結合して取り除くものであるため、認知機能の改善に結びつくことが示唆されているとのこと。

9月2日:アルツハイマー病の抗体療法(9月1日号Nature掲載論文)

 

また、エーザイは2018年7月に、もう一つの開発薬「BAN2401」についてのリリースを出しました。"認知症の進行を抑える効果が確認できた"とのことで大きく株価も上昇したが、7月末の発表では、効果や治験デザインにおいて疑問視される部分もあり、株価は下落し、その後は少し落ち着いた状態と言えます。

www.nikkei.com

www.nikkei.com

※参照:アルツハイマー病協会国際会議(AAIC2018)における「BAN2401フェーズ2試験結果」発表内容について / エーザイ資料(英語PDF)

 

新薬開発におけるPh3の高い壁

87の新治療法がアルツハイマー病の臨床試験にあるそうですが、1998~2014年に臨床試験を行ったアルツハイマー病治療薬127剤のうち123剤が開発を中止(参照記事)。承認取得に至ったのはわずか4剤で、成功確率はわずか3.1%というデータが示すように、アルツハイマー新薬の開発はかなり難易度の高いものだと分かります。

answers.ten-navi.com

直近でも、Axovant社の5-HT6受容体阻害アルツハイマー病薬intepirdine(RVT-101)のPh3試験が主要目標2つのどちらも達成に至らず失敗した、との発表が。

finance.yahoo.com

5-HT6受容体(※)標的薬の失敗は目新しいものではなく、PfizerやLundbeckも失敗をしていたのですが、

  • 2023年までに最大20億米ドルの売り上げを得られるようになる
  • プラスの試験結果が出れば株価が4倍に値上がりすることもあり得る

と大きく期待されていたこともあり(そもそも誇大広告だった?)、その反動も大きく、新薬への希望がまたしても失望に変わった瞬間でした。

5-HT6受容体
セロトニン(5-hydroxytryptamine:5-HT)受容体の一つ。セロトニンは中枢神経系の伝達物質として機能し、脳機能の調節において重要な役割を果たすと考えられている。また、5-HT6受容体拮抗薬はアセチルコリン神経細胞グルタミン酸神経細胞に対するGABAニューロンの抑制を解除することにより、認知を改善させることが期待されている。

Fiona女史は、Axovant社のニュース記事を引用して、以下のようなコメントをツイートしていましたね。

5-HT6アンタゴニストは、アルツハイマー臨床試験におけるエンドポイント(有効性を示すための評価項目)に適合しない。 このメカニズムでは、効果が十分ではない。 

 

そーせい(4565)のパイプライン

そーせい社は、Allergan社と提携し、選択的M1受容体作動薬、選択的M4受容体作動薬、及び、M1/M4デュアル作動薬の開発を進めています(これまで紹介してきた、競合他社のアプローチとは一線を画するもの)。

既存薬であるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬は内因性のアセチルコリンの機能を基とするため、非選択的ムスカリン作動薬として作用し、有効性が限定的、持続性がない、副作用による投与量の制限などの問題がありますが、開発薬はその問題点をすべてにおいて解決し、既存の治療法に比べ、より副作用が少なく高い有効性を有する可能性があるとされています(すでに一定の効果が認められているアリセプト/ドネペジルを、さらに選択性を高めて改良したもの、というイメージ)。

f:id:barista_stock:20170927123009p:plain

 

なお、そーせいは現在、アルツハイマー病とともに、レビー小体型認知症(DLB)の治療薬も開発しています。

barista-stock.hatenablog.com

 

また、そーせいの主要パイプラインの進捗についてはこちらを。

barista-stock.hatenablog.com

 

これらMシリーズも含め、アルツハイマー新薬のPh3の高い壁を乗り越える新薬は現れるのでしょうか?今後の進捗に注目ですね。

米製薬協(PhRMA)が発表した、臨床試験段階のアルツハイマー病薬候補一覧(PDF)