ばりすたの株式備忘録

ばりすたの株式備忘録

株の世界で5年後も生き残っていたい…

再考:創薬型バイオベンチャーのビジネスモデルについて - 伊藤レポート 2.0〜バイオメディカル産業版〜

経産省主催の「バイオベンチャーと投資家の対話促進研究会」を踏まえて作成された「伊藤レポート 2.0 〜バイオメディカル産業版〜 (pdf.)」をもう読まれましたか?先日、58ページにも及ぶフルバージョンがリリースされたので、興味のある方は時間のあるときにぜひ読んでみてください。

f:id:barista_stock:20180519170527p:plain

個人的には

  • ビジネスモデルと開発戦略
  • ビジネスモデルと出口戦略
  • ガバナンス

あたりは必読事項だと思うので、少し取り上げてみたいと思います。

[目次]

 

ビジネスモデルと開発戦略

創薬ベンチャーのビジネスモデル

創薬ベンチャーのビジネスモデルは⼤きくは2つに分類される。①⾃社が有する創薬技術⾃体や、そこから⽣まれた創薬シーズを⽐較的早いタイミングで他社にライセンスする創薬基盤技術型」と、②⾃社、あるいは⾃社以外が⽣み出した創薬シーズの開発も⼿掛ける創薬パイプライン型」「パイプライン導⼊開発型」である。ただし、多くの企業は、成⻑ステージに応じてこれらを組み合わせることにより、企業価値向上を⽬指すことが多い。

f:id:barista_stock:20180519171627p:plain

「バイオ」といっても、開発しているパイプラインの対象疾病が異なるだけでなく、そもそもビジネスモデルが違うとリスク・リターンのバランスも大きく変わってくるので、まずはそこを押さえておく必要があります。

このうち「創薬パイプライン型」モデルはハイリスク・ハイリターンなので、基本的には成功すれば大きく成長していく、もしくは成功を織り込んで大きく評価される傾向にあるはず。しかしレポートの「上場以来の時価総額成長率」によると、欧米と日本ではその成長率に大きな開きがあり、「創薬パイプライン型」が評価されていない、もしくは評価されにくい状況であることが分かります。 

ビジネスモデル・開発戦略とリスク

医薬品開発における統計上の成功率について、新薬の探索フェーズも含めた開発成功率は3万分の1などと言われるが、例えば、国内と海外の試算の平均では、臨床試験後期(P2試験成功以降)の成功率は72%程度とされている。また、臨床試験開始時点での成功率は17%程度と示されている。
一方で、疾患・治療手段ごとの成功率も試算されているが、臨床試験開始時点での成功率は5〜26%程度と示されており、一定の幅を持つことに留意が必要である。

f:id:barista_stock:20180519172637p:plain

上記のように言われており、フェーズが進むほどに成功率は高まっていくのが一般的ですが、それはあくまでも一般論であり、臨床試験ごとのデータをきちんと見ておく必要があると考えています。有意性がはっきりと出ているのかどうか、と。
また、治験デザインによっても結果の出方が変わってくると思うので、どのように治験を設計しているのか、無理やり進めようとしていないか、とチェックすることをお勧めします。「フェーズ3だから、まず間違いないだろう」と安心しきってしまうのは、ダメ、絶対

ビジネスモデルと出口戦略

創薬ベンチャーの中でも希少疾病を対象とした医薬品(オーファンドラッグ)の開発をする場合には、自社販売を実施するケースも多く存在する。
他方、患者数が多い疾患領域を対象とする場合には、大手製薬企業等と提携、もしくは企業ごと買収されることにより投資を回収するとともに、医薬品開発は大手製薬企業等に引き継ぐ事例も多い。

f:id:barista_stock:20180519174130p:plain

これについては後でも少し触れますが、 自社開発はコスト・リスクが非常に高くなる一方、長期的には上市後のキャッシュフローが大きく増えていくモデルです。したがって、比較的開発費が抑えられる希少疾病で、先に重くのしかかる研究開発費にも耐えられるのであれば、そのリスクを取りにいくという経営判断も妥当だと言えるでしょう。

 

ガバナンス

【配当ではなく、研究開発投資を優先することで中長期的な企業価値の向上を目指す傾向】

創薬ベンチャーは、一般的には配当よりも将来の企業価値向上の実現に向けた研究開発投資を重視する傾向がある。なぜなら、事業モデル上、特定の医薬品の特許が存続し十分な薬価が維持されている間に、成長を加速させるための研究開発投資を迅速に実行することで、新たな医薬品を上市することが求められるためである。

これは創薬ベンチャーだけに限らず、いわゆるベンチャー企業や、あるいはマザーズ市場に上場している企業などにも同じことが言えることだと思います。

 

さて、これを踏まえて、先日発表されたそーせいの「2018年3月期 通期決算説明会資料」について触れたいと思います。そーせい独自の内容はさておき、バイオベンチャー企業に興味のある方にとってはとても重要なことに触れられていたので、それを取り上げます。

該当の資料はQ&A後のP.20から、音声は35分20秒あたりからです(音声は以下のリンク先で聞くことが可能です)。

www.c-hotline.net

 

臨床試験のタイミングについて

なぜ第1相試験の開発試験が長くなっている傾向にあるのか?

これはそーせいだけのことですかね?そのへんが少し分からなかったのですが、他社でも同様のケースがあるかもしれないので、他のバイオベンチャーを見ている方は、各自ご確認ください…

上記問いの回答は2点。

  • 第1相において安全性の閾値が高まってきている
  • 第1相の幅広い目的/目標にエンドポイントの評価が含まれるように進化している(バイオマーカーデータ、効果の初期の兆候)

下図がとても分かりやすいのですが、要はP1b試験が旧P2試験と同等のものになってきているとのこと。そのため、第1相(P1a/P1b試験)におけるコストとタイミングが増加してしまっているそうです。しかし、これは第2相の臨床試験デザインにつながる大切なことであり、

データによって予測的なバイオマーカーとともに開発された薬剤は、それがないものと比較して承認確率が3倍高いことが分かっている

という指摘もありました。したがって、短期的には時間とコストがかかってしまうものの、長期的には時間とコストの圧縮になるため、良い傾向にあるようです。

上記の「伊藤レポート」で、開発リスクに触れられていましたが、相対的にかかるコストが少ない前段階で、できる限り成功率を高める動きだと言えるでしょう。

f:id:barista_stock:20180519181250p:plain

 

3つのビジネスモデルによるリスクヘッジ 

上記の「伊藤レポート」でビジネスモデルに触れていましたが、それに当てはめて言うと、今のそーせいは創薬基盤技術型」と「創薬パイプライン型」のハイブリッドモデルだと言えます。

f:id:barista_stock:20180519181307p:plain

具体的には「導出型/提携プロジェクトモデル」「共同開発型/利益配分型モデル」「自社開発モデル」の3つに分散してリスクヘッジしています。これまで日本市場においては、伝統的な導出型モデルでどれだけ導出できるかで評価されてきました。しかし、下記の説明を見れば分かるように、それが必ずしもそれがベストな経営判断になるとは言えないでしょう。

上記の「伊藤レポート」でも触れているように、少なくとも今のそーせいは希少疾病を対象とする開発の割合を高めていることもあり、長めの時間軸で企業価値をより一層向上できるような経営判断を取ったように思います。

また、説明会の中では、

自社開発モデルは、世界で最も成功しているバイオベンチャー企業、アムジェン、リジェネロン、セルジーン、ギリアド、バイオジェンなどが取っているコアとなる戦略

とも説明されており、溢れる自信が伝わってきたのと、明確に世界を視野に入れていると感じられた点にとても好感が持てました。この自社開発に舵を切ったことは、日本市場ではまだあまり評価されていないように感じますが、自信があるからこその経営判断だと思いますし、このリスクを取らなければ大きな成長も掴み取れないので、もっと評価されるべきだと考えています。

伝統的な導出型/提携プロジェクトモデル

f:id:barista_stock:20180519181322p:plain

共同開発型/利益配分型モデル 

f:id:barista_stock:20180519181338p:plain

自社開発モデル

f:id:barista_stock:20180519181352p:plain

 

バイオベンチャー企業の赤字の背景

会計上の損失についてのコメントで、バイオベンチャー企業は、売上・収益よりも研究開発を優先しなければいけない、とのこと。これも同様に「伊藤レポート」で触れられていました。

四半期、及び決算期ごとの赤字でいちいち騒ぐな、ということですね。そして、どういったビジネスモデルで、どんなパイプラインを有していて、それぞれがどのフェーズにあるかで評価すべきだと。

日本のバイオベンチャーは、欧米に比べるとまだ実績が乏しいので同じようは判断されにくいのかもしれませんが、早く欧米の水準に水準訂正されていくことを願っています。そのためには、僕たち株主も、バイオベンチャーをきちんと見極めて、投資していく目と姿勢を養っていかなければいけませんね。

f:id:barista_stock:20180519181403p:plain

 

 

いろいろ書きましたが、 今回、「伊藤レポート」とそーせいの決算説明を同じタイミングで読んでみたら、重なる点がかなり見られたのは大きな気づきでした。経産省主催の研究会にはアンドリュー・オークリー氏も一度参加していましたし、今回の決算説明会での補足説明は、それを意識した内容だったのではないでしょうか。

なお、そーせいの決算説明の中身については特に触れませんでしたが、興味のある方は 空投資家さん (@KaraTohshi) | Twitter のブログに詳しく書かれているので、そちらをぜひご覧ください!

beecle.blog.fc2.com

beecle.blog.fc2.com